世界は肉食化する

前回の記事では「貧困層が一定レベルで豊かになりだすと肉を食べるようになる」ということを書いた。そしてその肉を生産するためには膨大な量の飼料原料が必要で、甚だ効率の悪い贅沢の上に食肉文化が成り立っているということを簡単に説明したわけだけれど、今回はそれをもう少し具体的に書いてみたいと思う。

EU諸国の人々の平均食肉消費量は一人あたり70キロと言われていて、この70キロの肉を生産するための飼料原料を育てる穀物畑が420平米必要となる。この420平米というのは、ちょうどバスケットバールのコート1面分に該当する。
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EUに住む人達は、このバスケットボールコート1面分の面積の穀物畑を使って作られたトウモロコシなどの飼料原料を餌にして育った牛や豚などを毎年食べているということになる。僕たちアジア人の平均食肉消費量は27キロなので、一人あたり160平米の穀物畑を使用して自分の胃袋に収まる肉の餌を作っている。要は、一人あたり160平米の畑を36億人分使用して、食肉生産用の飼料原料を作っているわけですね。この面積がどれくらいかというと、フランス全土とベルギーを合わせたくらいの大きさになりますw
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で、これが今後アジアの人口が爆発的に増えて45億人になり、さらにみんな豊かになって肉を食べだして、一人あたり35キロとかいうような量を消費しだすことになりるわけです。もちろんその分飼料用原料も増えることになるので、新たに日本全土くらいの面積の穀物畑を使う必要が出てくるという話になる・・・

まさか僕たちは今まで散々肉を食べてきて、いやぁもうそろそろ健康と地球環境のためにベジタリアンになってもいいかな〜なんて思ってたとしても、それを途上国の人々に強制するわけにもいかないだろうから、誰かがこの急激に増え続ける食肉消費とそれを支えるための飼料原料の確保をしなければならない。

僕がカンボジアなどの途上国農業に可能性を感じているのは、実にこういった部分を担うことが出来るかもしれないからだ。未だに低い生産性と安い労働力、未開発の大地。この地で未開地の開墾から作物の生産・流通、さらには作物の自社使用による飼料生産と食用肉の生産などを実際にやってみたところ、トンデモナイ目に合わされまくって連戦連敗といった状況だけれど、ようやくコツというか勘所がわかってきた。

今、僕がカンボジアに来て農業を始めた3年前に予想していた通りの現実が、実際に目の前に起きている。僕の周辺のカンボジア人はどんどんと肉を食べるようになり、豚肉などの価格は上昇し、肉牛の輸入が活発になり、大規模に畜産を行う外国企業がカンボジアに進出し始めている。このように急激な食文化の変化を支えていくのは、農の効率化以外に答えはないと僕は考えている。

っていうか、飼料原料のほとんど全量を輸入に頼っている日本は、この急激な円安でどうなっていくんだろう?今の価格のままで肉を食べられるわけは絶対に有り得ないんだけど…

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ベトナムで乳牛が急増中

先日はハノイで農業をやっている市川さんにお会いさせていただいた。母体は西部開発農産という日本最大の大規模農業をやっている会社だそうで、現在市川さんはその会社のベトナム駐在として北部での大規模米栽培計画実行に向け色々と動かれているそうだ。っていうか、日本で最大といっても600ヘクタール超なんですね。取り敢えず100ヘクタールとか言ってしまうカンボジア農業とは色んな意味で大きな隔たりを感じますw

で、市川さんから聞かされて面白かったのは、ベトナムでは乳牛の輸入が急増しているというお話。そもそも牛乳なんて飲んでなかったベトナム人が、近年急に牛乳を飲み始めて国内の生産では全く追いつかないので、現在は牛乳を輸入しまくっていると。でももちろん国内生産することが理想なので、数千頭レベルの乳牛を色々な会社が輸入し始めているそうだ。

僕は以前から一人あたりのGDPの成長と食肉消費量の相関に関して調べていて、非常に手っ取り早い話をすると『人は一定レベルの金持ちになると肉を食い始める』という結果がわかっている。ただしこの場合の金持ちとは、自給自足の暮らしレベルを脱するGDPが5,000ドルから2万ドルまでの人たちのことを指している。経済成長著しいアジアの国々は、ほとんどがこの先10年以内に5,000ドル〜2万ドルのゾーンに入るわけで、これから10年間アジアのことだけを考えたとしてもどうやら大変なことになりそうだ。

ちなみに今のアジアの人口は36億人。僕たちアジア人の年間食肉消費量は一人あたり27キロ(ちなみにGDPの高い日本人だけだと48キロ)。これが10年後にはアジアの人口45億人、そして食肉消費量は35キロまで伸びるんじゃないかと予測されている。

36億人×27キロ必要だった食肉が45億人×35キロ必要になるというんだから、非常にインパクトの大きな話ですよね。

そして僕たちはもちろん『家畜の肉』を食べているわけだけれど、実はその肉となる家畜たちは餌(飼料)を食べて成長している。簡単に言うと僕たちはトウモロコシなどの飼料を肉という形に変えて食べているってことだよね。でもって、この変換効率がものすごく悪い。

牛肉1キロ=トウモロコシ11キロ
豚肉1キロ=トウモロコシ7キロ
鶏肉1キロ=トウモロコシ4キロ

今まではこのような非効率な贅沢は一部の先進国の人達だけのものだった。もし仮にアメリカで生産されているトウモロコシを飼料原料にしないで、人間が食べるようにすれば8億人を養うことが出来ると言われているくらいの量を家畜の生育のために使用している。僕たちはこうやって壮大な無駄遣いをしながら肉を食べるという贅沢を享受してきたんだけれど、これが一部の人の話では無く世界の大多数の人達が同じことを始めるという時代が、今僕たちの生きている現代だ。

市川さんからベトナムの話を耳にした時にも、ああやっぱり国民が豊かになるということは今までの食糧消費事情が大きく変化して家畜の数が増える、という僕の仮説は正しかったなと自画自賛してしまった(笑) そして乳牛の数が急激に増えるということは今まで必要なかった飼料原料が新たに必要になるということだ。そのことについても以前から色々と考えていて取り組んでいたこともあるんだけれど、それについては長くなったのでまた次回に続く予定ですw

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遺伝子組み換え作物

遺伝子組み換え作物って、なにかと評判が悪いというか恐ろしいイメージが付きまとっている。僕は科学者ではないので実際のところどれくらいヤバイのかわからないけれど、多分世界中の科学者が遺伝子組み換え作物は全く問題が無いと発表したところで、人々の感情的な負のイメージは消えないだろうから、この先も永遠に消費者に喜んで受け入れられる時も来ないんだろう。

僕も農業に関わる前までは、一体なんのために遺伝子を組み替えるのか全く知らなかった。きっと収穫量が飛躍的にアップするのだろうとは思っていたけれど、それはなにかボディービルダーがステロイドを打つような感覚で、作物が大きく育つとかそういうものだろうと考えていたんだけれど、どうもちょっと違うらしい。

じゃぁなんなんだというと、病害虫に強いということが一点。もう一つは除草剤がかかっても枯れないということが一点。悪名高きモンサントなんていう会社の製品が有名ですね。

で、僕も農業をやってみてわかったことなんだけど、除草作業って本当に大変なんですよ。もうなんか農業って作物を育てているというより、雑草を除去しているという方が正解なんじゃないかというくらい除草作業に手間が掛かる。しかも日本の高付加価値作物、例えばマンゴーとかイチゴとかトマトとかみたいに手間を掛けた分高く買ってくれる作物であれば、人件費を掛けて除草をしっかりやるというのもいいけれど、うちみたいにトンあたりいくらというコモディティー商品を作っていると、兎にも角にもコストを下げたもの勝ちということになるので、この除草作業が簡単に出来るという話はよだれが出るくらいに魅力的だ。

遺伝子組み換え作物とその作物にだけ効かないという除草剤の組合わせは、農家にとっても夢の様なイノベーションであることは動かしがたい事実なのも間違いはないんだよね。時間も人件費も削減できるし、農薬が自分の身体にかかったりするリスクも減らせる。有機栽培がもてはやされていて、それは確かに一つの理想でもあるのもわかるし、僕も直接口に入れるものであれば農薬を使ったりせず人の手で雑草を除去したものを購入したい。でも人手がかかる分それは価格に転嫁されて高価格になるわけで、もし価格に転嫁されず「人手と手間のかかったものをより安く」を世界が求め続けるのであれば、それは「低賃金で過酷な労働をする」現代版奴隷労働を容認するということと同意なんだよね、気がついていない人が多いけれど。

しかも野菜みたいに大量に消費しないものならともかく、世界の途上国が経済的に豊かになって多くの人びとが肉を食べ始めることにより増え続ける家畜を養うための飼料原料とか、様々な原料作物を超大量に作らなければならない分野では、簡単に価格に転嫁させることが出来ない。経済が成長して需要が増えているのに価格が上昇していないってことは、どこかにそのしわ寄せがよっているということでもある。そしてそのしわ寄せは、『将来が甚だ不安な科学的イノベーション』か『現代の奴隷労働』による不健全な低コスト競争につながっている。

もちろん低コスト競争自体は消費者にとってのメリットにつながるから大いにやるべきなので、僕はこの不健全な二択以外の第3の選択肢として、ロボティクスのような人間の作業を機械に置き換えていく流れが農業には最も必要だと感じています。手軽で安全で安価で大規模な除草が確実に出来る方法無いもんかな〜。

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