流暢に言葉を話せることが必ずしも良い結果を招くわけでも無いのではないか、という考察(いや、負け惜しみかも・・・)

ようやく長い道のりだったシリーズAラウンドを終えることができたので、次のステージへのステップアップに向け、カンボジアに来てもらえる主要株主・ボードメンバー・インドのマネジメント陣・カンボジア全スタッフ・BUDDY(AGRIBUDDYの農村エージェント)と農家から選ばれた人々・関係取引先に集まっていただきチームビルディングカンファレンスを行った。

AGRIBUDDYは株主が日本・カンボジア・シンガポール・デンマークとあちこちに居るばかりでなく、ボードメンバーも日本・カンボジア・インド・ベトナムと散り散りになっている。インドとカンボジアで事業展開していることから、それぞれのシニアマネジメント陣も膝を突き合わせて交流するという機会がほとんどない。さらにカンボジアのチームメンバーの殆どはボードメンバーとの面識も無く、そもそも株主っていうのが一体どういう存在なのかを理解していない。この機会にそれぞれが顔の見える存在として交流してもらったり、どういった人たちがどういう役割でAGRIBUDDYに関わってくれているのかを、各々の立場で理解し合える場を提供することを重要な目的としてプログラムを組むことにした。

オープニングの僕のセッションは、株主とはAGRIBUDDYにとってどういう存在なのかという説明に半分ほど時間を使い、会場に来ていただいている株主の皆さんをご紹介したり、ボードメンバーの大久保さんとクリシュナに簡単なスピーチをしてもらったりという感じで、主に経営サイドのメンバーをチームのみんなに紹介。

もちろん僕はカンボジアのローカル言語であるクメール語は使い物になるレベルで話せないので、カンボジアのマネジメント・ダイレクターを務めるパックに通訳をしてもらった。

残念ながら5名居るボードメンバーのうち2名は都合が合わず参加出来なかったが、東京から2名に来てもらうことが出来た。

前回のブログでも紹介した大久保さん

クリシュナは初カンボジア。空港に到着してから直行で会場入りしてもらった。

こちらはAGRIBUDDYが現在最も強くパートナーシップを組んでいる現地金融機関AMKのCEO、ボラン氏のスピーチ。

AMKはもともとキリスト教系NGOとしてカンボジアの内戦後に出発したマイクロファイナンスで当初はキリスト教徒しか採用しなかったのだが、それでは人材が確保しきれないということで他宗教の人々も雇用することになった。ボランはその栄えある「初のキリスト教徒ではないAMKの社員」。両親が貧しく子供を育てられなかったので地元の寺に預けられ、そこで学んだ英語力を買われてAMKに雇われ、会計を学び60万人の顧客を要する金融機関のCEOまで上り詰めたという筋金入りの人物だ。

その後は、パックが数年間のAGRIBUDDYの歩みと現状、今後の目標などについてのプレゼン。さらにはカンボジア各州から駆けつけてきた現場スタッフやBUDDYと農家の紹介。

そして農家の代表者、BUDDYの代表者、AGRIBUDDYの現場スタッフ代表者のスピーチと続く。

AGRIBUDDYの現場スタッフ代表者のチャーンは元ポルポト軍で部隊長をしていた人物。

ポルポトは勉学を否定したのでもちろん学校は数年間しか通えなかったのだけれど、地方に暮らす農家かつ50半ばになるという年齢にも関わらず新しいことを受け入れることに関しては非常に貪欲だし、勤勉で誠実で誰からも慕われるムードメーカーでもある。そもそもアルファベットなんて知らないレベルの人だったのに、今ではスマホを使って農家のデータを集めてるばかりか、Google翻訳を使って僕に日本語でメッセージを送ってきてくれたときには、さすがにちょっと胸が熱くなったのを今でも覚えている。こうやって、誰かの人生が変わる瞬間を目にすることが出来るのが、僕がこの事業を辞められない強いモチベーションの源泉なのかもしれない。

そして次は、AGRIBUDDYの関連パートナーと農家たちとの質疑応答セッション。

物理的にもソーシャル的にも狭い世界に暮らしている僻地の農家たちが、直接金融機関のCEOや穀物買い取り業者、農業資材メーカーの人たちと直接話す機会はほとんど、いや間違いなく無い。さらに、それぞれの事業者たちも同じ農業を切り口にした事業をやっているにも関わらず、自分たちの領域以外の人たちとの接点が無いため、これが彼らを直接つなぐことになった初めての機会となった。

実は僕とボードメンバーのスピーチ以外はすべてクメール語で行われたため、僕はこのカンファレンスの80%以上は一体何を話しているのかさっぱりわからなかった。僕が創業した会社で、僕が現在も最高経営責任者として事業を運営し、僕がアイデアを出して開催したカンファレンスなのにも関わらず、だ。

まぁ、僕は農村に行ったりしているときでも農家の人が何を言っているのかわからないときが多いから、こういう状況に慣れ親しんでは居るのだけれど、改めてカンファレンスの進行を客観的に眺めながら不思議な気持ちになった。「一体全体、どうやってこんなふうに会社が成長してきたのだろう」と。だって、創業者の僕が話せる英語は相当にブロークンで、それだって通じるのは今回のカンファレンスに集まっている人々の半数にも満たないというのに、ここに集まってくれた人々みんなが口々にAGRIBUDDYが如何にして農家とそれを取り巻く状況を改善していくか、ということについて熱く語ってくれている。

本来の僕のスキルセットの中で最も自信があるのは日本語能力だった。それなり以上に口数も多いし、人に説明したり話したりすることも得意な方だと思う。本を読むのも好きだし、文章を書くのもそれなりにこなせていると思っている。でも、それは全部日本語での話だ。確かに英語もそれなりに使えるけれど、その他大勢の英語ネイティブに比べれば、その能力は足元にも及ばないどころか、読み書きとなるとかなり苦手だ。もちろんそれがクメール語となると完全にお手上げだ。なんてたって僕の5歳の息子のほうがはるかに僕よりクメール語が上手いというレベルなんだから・・・。そうやって自分の得意技が封印された状態で事業を行ってきたにも関わらず、どうやらここまではうまく進んできている。であるならば、もしも僕がクメール語を日本語と同じように話すことが出来たとすれば、もっと事業はうまく成長したのだろうか?

きっと答えは「否」だろう。

どうしても伝えたい大切なことしか表現できないからこそ、変なバイアスが掛からずに伝わることがあるのではないのだろうか。言葉が多いからこそ真に伝えたいことがボヤケてしまったり、言葉の裏にある行動や表情や気持ちが見えなくなってしまうということがあるのではないだろうか。なんとなくそんなことを感じる機会となっただけでなく、これだけ多くの人々がAGRIBUDDYの事業と将来性を信じて賭けてくれているという事実を目にすることが出来て、また様々な立場の人たちをつなげることが出来て本当に良かった。これからも少なくとも年一回はこのようなカンファレンスを続けていきたいし、農家やBUDDYなど村から出たこと無く変化の少ない人生を歩んでいる人たちに、全く新たな出会いや体験を提供出来るようにしていきたいと心から思う。

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