そもそもAGRIBUDDYは日本人の僕が創業者ではあるけれど、日本とは全く関わりの無い事業を行っているし本社登記は香港だし、日本で上場を目指すような事業モデルでも全くないこともあり、当初から資金調達を日本で行い続けることが無理になるだろうし、その後の展開を考慮すると強みにもならないことを想定しており、日本国外のグローバルな投資機関に事業を理解してもらい資金調達をするのが絶対条件になると考えていた。とはいえ、僕の英語力が自分の日本語での表現能力に比べて著しく劣っていることも自分自身が誰よりも一番良く理解していて、AGRIBUDDY創業当時の状態では「いずれ絶対に超えなければならない壁」を超える手段も算段も持ち合わせていないこともわかっていた。
また僕自身は商売人ではあったがシリアルアントレプレナーという類の人物ではなかったので、スタートアップとか第三者割当を使った資金調達などは生まれてこのかた40年以上に及ぶ人生の中で一度もやったことも関わったこともなく、シードとかシリーズAとか一体なんのことを言っているのかすら知らなかった。そんなAGRIBUDDYにとって、最初に超リスク資金をシード投資してくれたのが日英ネイティブ・バイリンガルのベンチャーキャピタリストで、以前は海外のイケてる企業のM&Aを積極的に手がけてきたという、願っても叶わないようなドンピシャの人物である大久保紀章さんが役員としても参画してくれたというのは非常に大きかった。
また、AGRIBUDDYの前身となるカンボジアの農業プランテーション法人の時から参画してくれていて、AGRIBUDDYをその会社からスピンオフさせて独立事業とすることを提案してくれた加藤順彦さんの存在は言うまでもなく非常に大きく、「いずれは日本国外のグローバルな投資家から調達をする」という目標があるとは言え、現実的にはまだまだ事業がよちよち歩きにもなっていないようなシード〜アーリーの状態かつ、カンボジアというあまりビジネスイメージの無い東南アジアの片隅の国でやっている農業系スタートアップを相手にしてもらうには、日本の『加藤さんと一緒に投資を実行したことが有り信頼関係が熟成されている』投資機関の人たちに話を聞いていただく以外に道はなかった。加藤さんはまさに文字通りの二人三脚で調達活動をサポートしてくれ、それが実って前回のシリーズAAラウンドが無事に切り抜けられたのは下記のとおり。
http://ken5.jp/kengo/archives/2500
http://katou.jp/?eid=575
次のラウンドこそはもう言い訳は出来ない。是が非でも国外の投資機関に入ってもらって今後につなげられる道筋を証明しなくてはならい。それもあって、前回(2017年2月)の調達以降は加藤さんからインド在住の繁田さんに役員を入れ替わってもらい、また積極的にシニアマネジメント層の雇用も行った。その中でも特に僕が高い評価をしていたインド人、ラジェッシュの投資家ピッチが果たして評価されるのかどうかを試そうという思惑も有り、昨年4月に行われた新経済連盟の『新日本経済サミット』では、それまで国内ピッチイベントで連勝していた僕が日本語でやることを敢えて回避し、ラジェッシュを擁立してイベントに挑んだ。結果は国内のあらゆるピッチイベントの勝者たちを押しのけてポケットマルシェとの同率優勝という、今後に大きな希望をもたらせる結果となった。
http://ken5.jp/kengo/archives/2515
http://katou.jp/?eid=585
7月にはAGRIBUDDY第二の創業者と言っても過言ではないカンボジア法人MDのパックが加入してきて、一気に事業が形になり始めるのだけれど、その話はまた次回以降に書くことにしたいと思う。日本でのピッチイベントに連勝していたこともあり、色々な日本の投資機関からもコンタクトをもらい、かつ国外の投資機関にもプレゼンするということになると、必然的に全てのプレゼンテーション資料を日本語と英語で用意しなくてはならない。しかも、話の順序とか構成とかが日英では結構違う。どうもこういう資料作りというのがラジェッシュは苦手なようで、基本的に僕が全て作ってその英語をさらにブラッシュアップしてもらう、というような役割分担でまずは軽くいろんな人にピッチをしつつ肩慣らしをしていっていた。そんな矢先の昨年11月、繁田さんからMistletoe主催の「Farm to Fork」というイベントがバンガロールであり、そこにパネリストとして参加しないかという打診が有った。実はこれもラジェッシュを参加させるつもりでバンガロールに行っていたのだが、直前に繁田さんから「いや、ここは北浦さんじゃないとダメ。孫泰蔵さんも来ているから直接AGRIBUDDYのことをアピールできる最大の場だから」と言われ、まさに当日の会場で僕がパネリストとしてインド人の農業系スタートアップの人たちに混じってトークすることに決まった。
結果としてこれがきっかけとなり泰蔵さんから「素晴らしい取り組みをされていますね。ぜひ応援させてください」と声をかけていただき、今回のAラウンドのリードインベスターを引き受けていただけたわけだから、この繁田さんのキラーパスの鋭さと判断の正しさが最高の形で証明されることになった。実は、日本国内でピッチイベントに呼ばれまくったのも、最初は日経フィンテックに出場させてもらったからなわけなのだけど、これも繁田さんのパスだった。つくづく僕は繁田さんとの相性がいいと常々思っている(彼女からするとどうかは知らないが・・・)。
http://ken5.jp/kengo/archives/2415
ここから最終的にラウンドクローズするまでの間に繁田さんに動いてもらった(もしくは考えてもらった)時間と密度に関しては感謝してもしきれないくらいの総量となっていて、前回のラウンドの立役者が加藤さんなら今回のラウンドの立役者はまさに繁田さんであることに異論はない。そういった意味で加藤さんから繁田さんへの役員交代もバッチリとハマった結果となったとも言えよう。
で、ここで出てくる疑問点が「てか、結局泰蔵さんのMistletoeに出してもらったのなら全然グローバルちゃうやん」という声だろうと思う。実はここがもう一つ素晴らしいところなのだけれど、Mistletoeにはシンガポールチームがあってここは色んな国籍の人々が英語で動いてる『完全なグローバル投資機関』となっている。もちろん泰蔵さんやMDの大蘿さんもサポートはしてくれるのだけれど、基本的にはAGRIBUDDYにコミットして支えてくれる担当の人と全て英語でのやり取りとなる。そして、これが功を奏したのが他の投資機関の人々との交渉だった。コーポレートファイナンスと英語という2つの共通言語を持って話をしてくれる人がリードインベスターとして、他の投資家候補と話をしてくれたのが非常に大きな力となった。
僕が今回のラウンドの大きな成果の一つだと思っているのは、地元であるカンボジアのVCと保険会社がAGRIBUDDYを評価して投資をしてくれたことだ。この国のことを理解し実際に事業を行い、成果を出している人たちから資金を入れてもらって協力を得ることが出来る。この事実はAGRIBUDDYにとって非常に心強く、また期待値の高さの現れであることも僕たちの大きな励みにもなっている。とは言え、投資が決定する前までにも彼らがある程度はAGRIBUDDYを評価してくれてはいたものの、そしてMistletoeの人たちがサポートしてくれていたとはいえ、最終的な交渉や多岐にわたるルールが記載されている契約書の内容の読み込み、文言の細かい調整などに至っては完全に僕はお手上げ状態だった。多分日本語で書かれていてもよくわからんルールとか、コーポレートファイナンスを熟知していなければわからない勘所とか、そいういった部分がどうにもならない。ここを全て担ってくれたのが大久保さんだった。Forte保険とは業務で提携していたものの、AGRIBUDDYが戦略的事業提携のための投資対象となったのは大久保さん経由で経営陣と直接繋がったからだった。
結果として、今回はMistletoe、カンボジア携帯キャリアのスマートなどが出資するSmart Axiata Digital Innovation Fund、カンボジア最大手保険会社のFORTE Investment Holdeings、さらにはデンマークのINDEX: Design to Improve Lifeなど、4つのグローバル投資機関から投資を受けられることとなった。初期に設定していた「絶対に超えなければならない壁」を一つクリアすることが出来た。しかも自分ではそれをクリアする力が無いことも最初から分かっていたけれど、こうやって多くの人たちの獅子奮迅の活躍と協力により乗り越えることが出来た。まだまだ僕たちが目指す場所には多くの乗り越えなければならない壁がそびえ立っている。でも僕はこういうチームで一緒に挑戦していくことが出来る限り、どんなことでも可能になると固く信じている。