遺伝子組み換え作物って、なにかと評判が悪いというか恐ろしいイメージが付きまとっている。僕は科学者ではないので実際のところどれくらいヤバイのかわからないけれど、多分世界中の科学者が遺伝子組み換え作物は全く問題が無いと発表したところで、人々の感情的な負のイメージは消えないだろうから、この先も永遠に消費者に喜んで受け入れられる時も来ないんだろう。
僕も農業に関わる前までは、一体なんのために遺伝子を組み替えるのか全く知らなかった。きっと収穫量が飛躍的にアップするのだろうとは思っていたけれど、それはなにかボディービルダーがステロイドを打つような感覚で、作物が大きく育つとかそういうものだろうと考えていたんだけれど、どうもちょっと違うらしい。
じゃぁなんなんだというと、病害虫に強いということが一点。もう一つは除草剤がかかっても枯れないということが一点。悪名高きモンサントなんていう会社の製品が有名ですね。
で、僕も農業をやってみてわかったことなんだけど、除草作業って本当に大変なんですよ。もうなんか農業って作物を育てているというより、雑草を除去しているという方が正解なんじゃないかというくらい除草作業に手間が掛かる。しかも日本の高付加価値作物、例えばマンゴーとかイチゴとかトマトとかみたいに手間を掛けた分高く買ってくれる作物であれば、人件費を掛けて除草をしっかりやるというのもいいけれど、うちみたいにトンあたりいくらというコモディティー商品を作っていると、兎にも角にもコストを下げたもの勝ちということになるので、この除草作業が簡単に出来るという話はよだれが出るくらいに魅力的だ。
遺伝子組み換え作物とその作物にだけ効かないという除草剤の組合わせは、農家にとっても夢の様なイノベーションであることは動かしがたい事実なのも間違いはないんだよね。時間も人件費も削減できるし、農薬が自分の身体にかかったりするリスクも減らせる。有機栽培がもてはやされていて、それは確かに一つの理想でもあるのもわかるし、僕も直接口に入れるものであれば農薬を使ったりせず人の手で雑草を除去したものを購入したい。でも人手がかかる分それは価格に転嫁されて高価格になるわけで、もし価格に転嫁されず「人手と手間のかかったものをより安く」を世界が求め続けるのであれば、それは「低賃金で過酷な労働をする」現代版奴隷労働を容認するということと同意なんだよね、気がついていない人が多いけれど。
しかも野菜みたいに大量に消費しないものならともかく、世界の途上国が経済的に豊かになって多くの人びとが肉を食べ始めることにより増え続ける家畜を養うための飼料原料とか、様々な原料作物を超大量に作らなければならない分野では、簡単に価格に転嫁させることが出来ない。経済が成長して需要が増えているのに価格が上昇していないってことは、どこかにそのしわ寄せがよっているということでもある。そしてそのしわ寄せは、『将来が甚だ不安な科学的イノベーション』か『現代の奴隷労働』による不健全な低コスト競争につながっている。
もちろん低コスト競争自体は消費者にとってのメリットにつながるから大いにやるべきなので、僕はこの不健全な二択以外の第3の選択肢として、ロボティクスのような人間の作業を機械に置き換えていく流れが農業には最も必要だと感じています。手軽で安全で安価で大規模な除草が確実に出来る方法無いもんかな〜。