僕の長男の1歳の誕生日だった昨日、この1年半に渡って試行錯誤しながら開発してきた「途上国向け農業データ管理サービス」AGRIBUDDYのβ版を、Google Playからリリースすることが出来ました。
僕がカンボジアに居を移したのが2010年。その翌年2011年に、現在プノンペン在住でで一緒にHUGSの共同代表をやっている黒川や応援してくれる仲間たちと共に会社をカンボジアで創業した。HUGSで真っ先に取り組んだ事業が農業、農地開墾から始めて大規模農場を運営するという戦略のもと、カンボジアのジャングルの中を走り回って候補地を探し、1000ヘクタール(ディズニーランド20個分)の広さの森林を切り開いて農地にするという事業を開始した。結果は、いかにもカンボジアらしい「全く理解不能だけど、誰にも責任の所在が無いからゴメンね」的な騒動に巻き込まれて、大金を突っ込んで開墾した土地が使えないというとんでもない事態に陥った。
そこで辞めるわけには絶対にいかないので、今度は森林を開墾して農地にするという戦略を変更し賃借出来る大規模農場を探しだして、そこで同じく1000ヘクタール近いキャッサバ農園の運営を開始した。一つの区画を25ヘクタール程度(それでもディズニーランド半分の大きさ)に分割し、全部で数十区画ある農場を数十人のファームマネージャーがそれぞれコントロールしながら、数百人の労働者を使って同時進行で様々な作業をする。農場が大きく区画数も多すぎて色々なレポートを聞いても実際にどこで何がどれくらい行われているのか、わかっても理解出来ないというジレンマに、一体みんなどうやって農場をコントロールしているんだろうという疑問を感じながら運営を続けた。正直な話、自分が自分自身の農場内のどこに立っているのか、正確な位置を把握することすら不可能だった。
そうこうしているうちにタイ東部とカンボジア西部を襲った大雨洪水で、地平線のそのまた向こうまで続くうちの農場も大きな被害を受けて、現場から送られてくるメールはまるでスパムメールの如く何通にも分かれて各区画ごとの被害の様子の写真が添付されていた。
どの写真もこの写真も全て水没した農場の写真。
ヒドイことになってるってことは良くわかったが、実際のところどの場所がどれくらい被害を受けたのかわからない。「大変だ、えらいこっちゃ」はということだけはよーく理解できる。でも全然正確な数字やイメージが掴めない。地図を作って状況を把握して報告しろと言ってみたところでこのレベルが限界だった。
こんなことでまともな事業なんて出来るはずがないと思った。
「どうして誰もこの状態に疑問を持たないんだろう?なんで誰も不便を感じて、これじゃダメだとか思わないんだろう?」
いや、そんなはずはない。なにかイケてるサービスが有るはずだろうと思って探してみた。いくつか僕のイメージに近いようなものが有ったけれど、たいしたこと無い割には利用料金がえらく高かったり、内容が複雑すぎて使う前に学校に通わなきゃならないんじゃないかって感じだったり、どうもしっくり来るものがない。しかも、色々と調べていくうちに、そもそも論として農業の世界はIT化がむちゃくちゃ遅れているということがわかった。IT化が進んでいるとしても、それはそれでいきなり植物工場のような最先端技術を駆使し過ぎていて、完全に別次元の事業の話になってしまっている。
早い話が、イケてる連中が使いやすくてユーザービリティーに優れているようなサービスを構築する土壌が、農業の世界には全く存在してなかった。強いて言えばシリコンバレーで良さそうなサービスは誕生しているが、残念ながら僕たちが農業をやっているような途上国では上手く使えそうにもなかった。なぜかって?先進国と途上国ではあまりにも前提条件が違いすぎるからだ。働く人々の教育水準もモラルも全く違えば、必要とされることもまた違う。しかも先進国ですらイケてるサービスが見当たらない中、インターネットに接続したこともなくスマホもPCも持っていないような途上国の農家向けのサービスなんて存在するはずも無かった。
だったら自分たちで作ればいいんじゃないか?自分たちが困っていることは、他にも同じことで困っている人が絶対に居るはず。こんなままで途上国の人々が行き当たりばったりで、データも蓄積されないような農業を続けていても絶対に生産性が上がるはずもない。誰もやっていないところに新しい仕組みを創造することが出来れば、それはものすごい価値を生むんじゃないだろうか?そうやって構想をスタートさせて生まれたサービスがこのAGRIBUDDYです。
今、ようやく僕たちはスタート地点まで辿り着くことが出来ました。当初は5年でカンボジアでのビジネス立ち上げを成功させて、また他の国に行こうと考えていた僕の目論見は見事に途絶え、成功どころか失敗と絶望と悔しい思いの繰り返しの4年間を過ごしてきました。でも僕のチャレンジは終わらない。また一つ、新しい挑戦の始まりです。さぁ、楽しもう!